モノオモイな日々 Lost in Thought

過去の覚書、現在の思い、未来への手がかり

未来への種を蒔くプロダクション「ミライ・プロ」の提案

<以下は、2019年、ナレッジキャピタル「ワイガヤサロン」の活動の中で作成した、2025年万博に向けた新しいプロジェクトの提案書である。一部、背景を知らないと理解しにくいところもあるが、原文のまま掲載する。内容の大筋は、以前から私がやりたいと思っていたことそのものであり、これからもその可能性を探りたいプロジェクトである。>



子どもたちや若い人々、海外の人々に、未来への指針と夢をあたえるコンテンツを創る、あたらしい制作プロダクション、「ミライプロ(仮称)」を設立することを提案します。
今、第一線で活躍している研究者・技術者・企業人が、その仕事に就こうと思ったきっかけに、子供の頃みた漫画やアニメーション、映画があった、と述べています。たしかに、70年万博の前後にも、未来の科学技術や当時の社会問題をテーマにした、良質な子供番組が数多く放映されていました。それらのコンテンツが当時の子どもに夢の種を与え、それぞれの子どもがその種を育て、おとなになって花をさかせたのではないでしょうか。そのような、子どもたちに夢を与え、未来をつくるきっかけになるコンテンツを、2025年に向けて、あらためて作りたいと思います。

そのようなコンテンツを創る「基地」が「ミライプロ」です。ミライプロは、次世代の子供たちを育てるとともに、「感性」が高く、「編集力」の優れた、良質のコンテンツを創る人材も育てます。エンターテイメントだけでなく、ドキュメンタリーも含め、また、ジャーナリズムの分野もカバーすることを目指します。


## 背景(または、提案の背景にある思い)

私はこれまで、科学技術系をテーマにした映像制作や記事執筆の仕事をしてきました。その中で、数多くの研究者・技術者にインタビューしてきましたが、「どうしてこの研究者・技術者になろうと思ったのですか?」という質問をすると、「子供の頃、若い頃に観たTV番組や映画、SF小説に影響されたのです」と答える人が、とても多いことに気がつきました。

たとえば、「小さい頃、『サンダーバード』を観て航空宇宙分野の研究者になろうと思った」とか、「昔から『ガンダム』が大好きで、今、ロボットを作っています」。あるいは、「映画『マイノリティ・リポート』でトム・クルーズが操作する空中映像がかっこよくて、ヒューマン・インターフェースを研究したいと思ったんです」など、第一線で活躍する研究者・技術者が、子供の頃観たアニメーションや漫画・映画・小説を思い出しながら、とても楽しそうに話す様子が印象的でした。

70年万博の頃を思い返してみると、さまざまな映画・TV番組が制作されていたことがわかります。たとえば、『ウルトラQ』、『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』など円谷プロダクションの特撮シリーズ、東宝の『ゴジラ』や大映の『ガメラ』など怪獣もの、『長靴をはいた猫』や『空飛ぶゆうれい船』などの東映のアニメーション、『鉄腕アトム』『火の鳥』など手塚治虫の漫画・『虫プロ』のアニメーション、など、良質な漫画・アニメ・映画・小説は、子どもたちの好奇心を育み、今の道にすすむきっかけとして、とても大きな影響を与えたのではないでしょうか。

もうひとつ、本提案の背後にある、私の経験をお話したいと思います。それは、2000年前後、メーカーの技術者として米国に約5年間駐在し、現地で暮らした体験です。当時、米国はほとんどの家庭にケーブルテレビが普及し、数多くのチャンネルを通じて、さまざまな番組(コンテンツ)を視聴することができました。その中でも特徴的な番組が、ドキュメンタリーでした。『ディスカバリーチャンネル』、『ヒストリーチャンネル』『ナショナルジオグラフィック』など、良質なドキュメンタリー番組を家庭でいつでも観られる環境があり、それらの番組を視聴するうちに、このようなドキュメンタリーが、科学技術や歴史・文化・芸術への子どもたちの興味を養い、未来への夢を形作っているのではないかと思うようになりました。これらの番組は米国内だけでなく世界中で放映されているので、全世界にいる、能力の高い子どもたちが、米国で科学者・技術者になりたいというモチベーションをもつだろう。それが、米国の強さになっているのではないだろうか。そんな風に感じたのです。

この2つの経験から、私が確信したのは、「子どもたちに夢を与えるコンテンツが、その国・社会の次の時代を創る、大きな力になっている」ということです。言い換えれば、未来をつくる人材を育てるためには、若いうちに夢と刺激を与えるようなコンテンツが必要だ、ということです。

コンテンツが子どもたち・若者に与えるのは「夢」だけではありません。自国や地方、海外の国々の歴史・文化、また、社会がかかえる問題などを知ることも大切です。難しい知識を勉強するのではなく、体験・体感を通じて、楽しみながら、自然に知らせ、考えさせることができるのが、コンテンツのもつ大きな特長です。

1970年の万国博覧会の前後に放映された『ウルトラセブン』などの脚本を手がけた金城哲夫は、当時まだ米国領だった沖縄の出身でした。金城は「外国」である本土で脚本家として働いてきた、彼自身の体験の中でうまれた問題意識をテーマにしたシナリオをいくつも書いています。それは子どもには少し難しいテーマかもしれませんし、答がすぐに見つかる問題でもないでしょう。しかし、金城は、彼の脚本を通じて、社会が抱える問題を子どもに伝え、考えさせることによって、子どもたちに未来を託したのではないでしょうか。

ウルトラシリーズでは、金城以外の脚本家も、公害、差別、貧困、戦争・核兵器など、それぞれの問題意識を脚本の中に入れ、子どもたちに届けました。虫プロ東映のアニメ、その他のテレビ番組も、おとなになった今、あらためて観てみると、当時のさまざまな社会問題が時に明白に、時には間接的に埋め込まれていることに気付かされます。このように、私たちの社会、未来について考える意識を育てるのも、コンテンツの大きな使命だと思います。

ナレッジキャピタルともつながりの深い、国立民族学博物館を創設した梅棹忠夫は、70年万博と同時期であるテレビの黎明期に書いた論考集、「情報の文明学」の中で、「放送産業は教育産業である」と喝破しました。当時、テレビは娯楽の媒体であり、「常識的な」人々の多くは「テレビなんか見ていると頭が悪くなる」と考えていた時代です。教育どころか「害悪」とさえ思われていたテレビの意義を、梅棹は「教育」であると主張したのです。梅棹は、子どもたちや一般の大人にとって、テレビというあたらしいメディアは、学校とは違った方法で知識を与え、人々の好奇心を育む役割があり、社会全体の知のレベルを向上させるものになる期待していました。テレビを見て育った子どもたちが社会に出た時、テレビから得た知識や経験を糧に社会を変えていくだろう。梅棹は、そんな未来を、テレビ放送に見ていたのだと思います。これは、冒頭に述べた、研究者・技術者がインタビューで語ったことと合致しています。梅棹の洞察は、正しかったのです。

子ども向けの映画やテレビ番組・漫画や小説は、ただ楽しいだけの「甘いお菓子」ではないはずです。それらには、あたらしい技術や科学といった未来の可能性に加えて、今、社会がかかえている問題を子どもたちに伝え、それについて少し考えてほしい、いうメッセージが込められているのではないでしょうか。すなわち、コンテンツは子どもたちの「お菓子」であると同時に「栄養」でもあるはずです。そんなコンテンツを創る義務が、わたしたち大人にあると思います。

もうひとつ、付け加えたい背景があります。それは、今、じわじわと拡がっている「ジャーナリズムの危機」の問題です。

国境なき記者団が年1回発表している「世界報道自由度ランキング」で日本は世界180カ国中70位近辺(2016〜17年は72位、2018〜19年は67位)と過去最低レベルで低迷しています。G7の中では最下位で、今、国民の権利が侵害されつつあり、市民が懸命に抵抗している香港と変わらない順位です。

現在おきていることを正しく把握できなければ、どんな未来に向かえばいいかという判断を誤ってしまう恐れは大きくなります。最悪の場合、間違った未来に向かっていても、それにさえ気づかないかもしれません。国内・国外の動向を、「フェイク」を見抜き、「事実」をもとに正しく把握することができれば、未来を予測する精度もあがります。この先頭に立つのが、本来のジャーナリズムの役目だと思います。

今、既存のマスメディアが、ジャーナリズムとして本来あるべき機能や自由を失っているのなら、ジャーナリズムの外にある人や組織が、既存メディアの代わりに、真実を伝える活動を行うために立ち上がらなければならないと思います。そのひとつの方法は、ある地域やある分野の第一線で活動している人・組織が、それぞれの専門性を活かした「マイクロ・メディア」(「オウンド・メディア」)を持つことだと考えます。2025年の万博で、世界の人々が賛同する未来像を示すためには、正しい未来に向かうために必要な情報を集め、それを翻訳し、伝えるメディアを創らなければなりません。

以上が、「ミライプロ」提案の背景にある私の思いです。明日、花を咲かせるためには、今日、その種を植え、水や肥料を与える活動が必要です。それを具現化する活動が、夢を与えるコンテンツ制作だと考えています。



## 提案詳細

###1.ミライプロの機能

夢をあたえる制作プロダクション、「ミライプロ」は、次の3つの機能を持ちます。

1)アート・カルチャー・サイエンス・テクノロジーをテーマにした、エンターテイメント・コンテンツのプロデュース・制作と発信
2) アート・カルチャー・サイエンス・テクノロジーの分野のドキュメンタリー映像・書籍の企画・制作と発信
3) VR/MR、インタラクティブ技術などあたらしいテクノロジーを使ったメディア(機器)の開発と普及
4)それぞれのコンテンツを制作・開発する人材の育成

発信の対象メディアは次の通り。ただし状況に応じて臨機応変に対応します。
・映画、TV番組、ネット番組
・漫画、雑誌、小説、ドキュメンタリー
・各種イベント




### 2.ミライプロのプロジェクト

上の機能を具体的に実現するため、次のプロジェクトを起ち上げます。

#### プロジェクト1 映画・小説のプロデュース
サイエンス・テクノロジー・アート・カルチャーをベースにした映画、アニメーション、小説などのプロデュースを行います。
資金調達は、外部ファンドと連携して行い、脚本・監督などのメイン制作者はコンテストによって発掘、実際の制作経験を通じて人材育成を行います(後述)。

#### プロジェクト2 先端テクノロジーを活用した体感型機器の開発
VR/MR、AI、ロボットなどの先端テクノロジーを活用し、体感型機器・システムを開発し、情報発信やコンテンツの表現方法として活用します。

### プロジェクト3:クリエイティブ・コンテスト
脚#本家、監督、アニメータ、漫画家、小説家など、若い、優秀なコンテンツ制作人材を発掘、育成するためコンテストを実施します。ISCA、ショートフィルムフェスティバルなど、ナレッジキャピタルの既存コンテストとも連携します。コンテストの優秀者は、「ミライプロ」で実際に仕事をしてもらうことで、人材育成を行います。

#### プロジェクト4:「出版社」の設立
情報を人々に伝えるためには、創るだけでなく、広く発信するための情報発信基地が必要です。そのための、あたらしい「出版社」を設立します。
旧来の書籍や雑誌だけを対象とするのではなく、テレビ番組、オンラインメディア・映像・VR/MRなど、さまざまなメディアを分野横断的に企画・制作する、情報発信プラットフォームです。

#### プロジェクト5:社会活動支援
良質のコンテンツを生み出すには、幅広い見識・教養を持ち、さまざまな社会の問題を把握し、解決方法を提案する能力と姿勢も重要だと考えます。そのためには、教育、文化財保護、弱者支援など、さまざまな社会活動に参加し、社会に貢献します。この活動によって人材育成を図るとともに、そこで得た経験や知識をコンテンツ制作に活かすことで、より質の高いコンテンツを創ります。