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モノオモイな日々 Lost in Thought

過去の覚書、現在の思い、未来への手がかり

ニーズを捏造する「広告主義」から脱却せよ

wired.jp

今日、2017年1月3日、WIRED日本語版に、若林編集長の強烈なメッセージが掲載された。タイトルにある「『ニーズ』に死を」という言葉。単なるアイキャッチではない。若林さんは、現在のメディアのあり方に、本気で戦いを挑んでいる。少なくとも、僕にはそう思えた。


『ニーズ』なんて言葉は、錬金術にすぎない。


若林さんは、そう言い放つ。

若林さんの言葉に、そう、その通りだ!と直感的に同意した人たちは少なくないだろう。

僕もその一人だ。そして、この刺激的な文章を読みながら、「ニーズ主義」の裏にある「広告主義」について考えていた。


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ビジネスにおいて、「何事もまず『ニーズ』から」という「信仰」は、けっして新しいものではない。しかし、それが、本来の枠を越えて強く唱えられ始めたのは、バブルが崩壊した1990年代からではないだろうか。高度経済成長を続けてきた経済が頭打ちとなり、その「断末魔」であったバブルがはじけて、それまで「ジャパン・アズ・No.1」と言われるほどに世界の経済の中心に躍り出た日本人は自信を失いつつあった。

そんな中で唱えられ始めたのが、「作り手中心の考えではだめだ」という「真理」だった。「作れば売れる」時代はもう終わったのだ。これからは消費者のニーズをくみ取り、ニーズにあった製品・サービスを提供することが正しいのだーーーーーそんな主張が世の中を席巻し、まるで天空から垂れ下がった蜘蛛の糸のように、誰もが飛びついた。


そのような中で、それまで経済を引っ張ってきた製造業に代わって幅をきかせ始めたのが、メディアと広告代理店だ。


マーケティング」と称する、一見合理的に思えるが、分析しやすい、事実のほんの一部だけを取り上げ、誇張するスキルが崇拝されるようになった。「作り手の勘と経験」なるものは、悪しき旧弊とされた。

そして、広告の役割は、それまでの製品・サービスの知名度を向上させるという補助的なものから、一般大衆の中に新しいニーズを作り上げる、積極的なものへと変わっていった。「ブランディング」や「カスタマーロイヤルティ」などという、耳障りのいい言葉を次々と並べながら。


それ以降、誰もがニーズを作り出すことばかりに目を向け、製品やサービスの品質はないがしろにされ、控えめに言っても、以前に比べると軽視されるようになった。世の中全体が「広告主義」というドグマに陥ったのだ。そして、それは、今でも続いている。


しかし、というか当然というべきか、「広告主義」に陥った日本の経済はバブル崩壊後も低迷を続け、一般大衆の閉塞感は重くなる一方だ。それでも「広告主義」を否定するものはほとんどいなかった。なぜなら、「広告主義」の主導者たちーーーマス・メディア、広告代理店、そしてそれらに資金を提供する大手企業ーーーは、情報を通じて、人々の心を操作できる。たとえ、それが社会全体にとって良いことではないと感づいていても、自分たちに利益にあることであれば、手放すことはない。「ニーズを作り出すことが最重要」というドグマを支持させる、自分たちの利益となるニーズを、彼らは永遠に作り出せるのだ。


世の中の「賢い」人々が、ただニーズを生み出すことだけに奔走する社会から、未来を変えるようなイノベーションが生まれるはずがない。自分たちで創り出した(捏造した)ニーズから、新しい価値は生まれることがないのは明らかだ。


「広告主義」に携わる人々は、さもイノベーションがおきたように「飾りつける」スキルには長けている。しかし、彼らの見識は常に「後追い」であり、「使い捨て」することが彼らの利益を生む。

僕が言うまでもなく、真のイノベーションは「作り手」と呼ばれる人たちーーーーーメーカーや技術者、研究者、芸術家などーーーーーからしか生まれない。(ただ、付け加えるならば、いわゆる第3次産業の中にも「作り手」と呼ぶべき素晴らしい人たちはたくさんいる。どんな分野であれ、新しい価値を創り出そうという「メーカー・マインド」を持っている人たちは「作り手」であり、イノベーションの担い手になる。)



少子高齢化が進む日本で、昨日より良い明日を作ることは、簡単ではない。人口減少が間違いなく進む国で、経済を盛り返すのは、並大抵の努力では無理だろう。しかし、たとえ衰退の道を進もうとも、常によりベターな選択は存在するし、考え続け、行動を起こすことで、やってくる衰退を少しでも遅らせることはできる。


その選択の第一歩は、架空のニーズを生み出すまでに行き過ぎた「広告主義」から脱却することだ。そして、僕たち一人ひとりが、自分自身の知識や経験から産まれてきた自由な発想を大切にし、それを人々と共有し、現実の世の中で具現化していくことだ。それは、誰もが「作り手のマインド」を持つことだと言える。

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若林編集長のオピニオン記事には、1日で5000以上もの「いいね」がついた。ネットにアクセスする人が少ない正月休みに、これだけ多くの人が支持したことには、救いを感じる。多くの人が、「ニーズ主義」の胡散臭さに気づいている。

僕たちが今、乗っている船はあまりに巨大で、その方向はすぐには変わらないかもしれない。しかし、今、向かっている方向はおかしいぞ、と気づき始めた乗客は増えている。「作り手」としての意識を持つ人たちが一定数を超え、ほんとうの意味でのニーズが喚起されれば、僕たち一人ひとりの手で、世の中を作り変えられると信じている。