モノオモイな日々 Lost in Thought

過去の覚書、現在の思い、未来への手がかり

「誰かがこの町で」佐野 広実

ある高級住宅街で殺人事件がおきる。

「安全安心」をうたう、誰もがうらやむ街。その背後には、暗い闇があった。

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この小説を読み始めて真っ先に思ったのは、やはり今の政治を始めとする組織の腐敗のこと。

本来は社会全体のために行動すべき人たちが、より強い権力に隷属し自分の属する組織の維持とその中での自己の保身を最優先し、そのために事実の隠蔽や改ざんや違法行為や犯罪まで行ってしまう。

そんな、外から見れば明らかな歪さに、「中にいる人」は気づかないのだ、という恐ろしさだ。

 
ぼくが若い頃に影響を受けた本のひとつに「ゲーデルエッシャー・バッハ」がある。その中で初めて知った、ゲーデル不完全性定理は、人生の指針となっているといっても過言ではない。それを優しい言葉で言うと、「あるシステムの中で議論する時、正しいか間違っているかわからない問題が必ずある。その問題の真偽を知るためには、さらに上のシステムからその問題を観なければならない」。

もちろんこれは数学の定理であるが、「システム」は、社会一般にも拡張できるのではないか、とぼくは思った。企業、国、地域のコミュニティ、教育や福祉…。ある困難な問題にぶつかった時、それを解決する方法は、今いる「世界」から、もうひとつ上の「世界」に飛び出ること。それしかない時もあるのだ。



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