モノオモイな日々 Lost in Thought

過去の覚書、現在の思い、未来への手がかり

私の敵(茨木のり子「敵について」)

オーディブル茨木のり子の詩の朗読を聞いている。詩集の選者は谷川俊太郎さん。

鋭角な言葉。その根元を支える静かで強い意志。

僕はまだ茨木さんのいる場所まで到達していないけど、かろうじて霞の先にたたずむ茨木さんのシルエットが見える。

彼女は無言で、あなたはここまで来れるか?と問いかける。

僕の歩みは遅いけど、進んでいる方向はだいたいあっているよ、と支えてくれている。

朗読を聴きながら、そんなことを考えていた。

敵について
  茨木のり子



私の敵はどこにいるの?

  君の敵はそれです

  君の敵はあれです

  君の敵はまちがいなくこれです

 ぼくら皆の敵はあなたの敵でもあるのです


ああその答のさわやかさ 明快さ

  あなたはまだわからないのですか

  あなたはまだ本当の生活者じゃない

  あなたは見れども見えずの口ですよ

あるいはそうかもしれない 敵は…

  敵は昔のように鎧かぶとで一騎

  おどり出てくるものじゃない

  現代では計算尺や高等数学や

データを駆使して算出されるものなのです


でもなんだかその敵は

わたしをふるいたたせない

組み付いたらまたただのオトリだったりして

味方だったりして…そんな心配が


  なまけもの

  なまけもの

  なまけもの

  君は生涯敵に会えない

  君は生涯生きることがない


いいえ 私は探しているの 私の敵を


  敵は探すものじゃない

  ひしひしとぼくらを取りかこんでいるもの


いいえ 私は待っているの 私の敵を

 

  敵は待つものじゃない

  日々に僕らを侵すもの


いいえ 邂逅の瞬間がある!

私の爪も歯も耳も手足も髪も逆立って

敵!と叫ぶことのできる

私の敵!と叫ぶことのできる

ひとつの出会いがきっと ある。