モノオモイな日々 Lost in Thought

過去の覚書、現在の思い、未来への手がかり

翻訳者

どんな分野でも、それを突き詰めてやっている専門家と、まったくそのことを知らない一般人の間に、広い意味で「翻訳者」と呼べる人がいる。

「翻訳者」は、外にいる人にはわかりにくい専門知識の本質を的確に理解して、それを一般人が理解でき、面白いと思えるレベルに変換して伝える能力をもっている。優れた翻訳者は、人々に、未知の物事に関心を向けさせ、興味を掻き立て、一部の人々を熱狂させる。

幸運にもそういう「翻訳者」のいた分野が、今、一般人にも知られているんじゃないだろうか。逆に、そういう人がいかなかった分野は、いまだによく知られていないのではないか。その分野自体の重要さ、面白さというのはもちろんあるけれど、それだけでは伝わらない。僕たちが客観的な価値だと思っていることも、実は「翻訳者」がそれを伝えたか、伝えなかったか、ということに、かなりの部分を負っているのかもしれない。

「翻訳」は、いわゆる解説だけではなくて、カルチャーと呼ばれるもの、たとえば、漫画やアニメや映画や小説なども含まれる。むしろ、そういうものの方が、より広く人々に影響を与えているのは間違いない。たとえば、子供の頃、SF映画をみて科学者を目指したり、社会派漫画を見て法律家になった者は少なくないだろう。


文明の進化をドライブしてきたのは、案外そんなものかもしれない。「翻訳者」は主役にはならないかもしれないが、その時代・文化になくてはならない脇役であって、おおげさにいうと、人類の進化には欠かせない存在なのだ。