モノオモイな日々 Lost in Thought

過去の覚書、現在の思い、未来への手がかり

木星と土星

今月の後半、クリスマス近辺に、木星土星が、夕方の西空に並んで見えるそうだ。その見かけの距離は月の直径の5分の1まで近づくというから、肉眼だと「超明るい二重星」のように見えるはずだ。

これだけ近づくのは「1226年3月4日の夜明け前以来」(CNN.co.jp)という。これは本当に希少な体験だ。


僕は小学生の頃、天文少年だった。隣町の天文科学館に足繁く通い、「天文ガイド」と「天文年鑑」と「子供の科学」の天文コーナーを、ページがしわくちゃになるくらいに読んだ。天体写真家、藤井旭さんの「星空の四季」という写真集が大好きで、何度読んだ(というか眺めた)かわからないほど読んだ(というか眺めた)。


小学校3年の時、天体望遠鏡を買ってほしい、と親に要望した。しかしその願いは受け入れられず、それなら自分でなんとかしてやる!と決意し、家にあった虫眼鏡をお茶の缶にとりつけて自作の天体望遠鏡を作った。光軸もぶれぶれ、レンズの色収差もひどくて、金星がなんとなく三日月形に見えるかな?程度の「望遠鏡的なもの」でしかなかった。率直に言って、この工作は技術的には失敗だったが、「僕は天体観測を本気でやりたいんです」というアピール力にあふれていたという点では大成功で、その翌年、小学校4年生の時に、ついに天体望遠鏡を買ってもらえたのだった。


初めての天体望遠鏡をまず向けたのは月。その次が、木星土星だったと思う。実際、小さな天体望遠鏡で天体っぽく見えるのはこの3つしかなくて、ほとんどの天文少年は同じ道をたどるのではないだろうか。藤井旭さんの写真集では美しく見える他の惑星や星雲や星団も、小さな望遠鏡では、ほとんど何も見えないのだ。だが、逆に、月と木星土星は何度見たかわからない。コンディションのいい夜に、木星土星の縞模様がおぼろげに見えたりする(気がする)と、もう大興奮だった。


その頃、木星土星の観測に絶好の季節は、秋から冬だった。虫の声がきこえる秋の庭、茜色から真っ黒に変わる夜空に、王者のようにひときわ明るく輝いていた木星。空気が透明な、芯から冷える冬の夜、近くの公園で観た土星。とおりすがりの仕事帰りの大人に「ちょっと望遠鏡見せて」と声をかけられて、見せてあげたら、思ったより大したことないな、と言われてショックを受けた。僕は、この望遠鏡で見えるのはこの程度なんですよ、と表向きは目上の人に丁寧に受け答えしながら、内心では、これだけ見えるだけでもすごいんだ。この大人はわかってないな、と憤慨した。



あれから数十年がたち、今は、夜空を見上げることもほとんどなくなった。それでも、木星土星の接近のニュースに、なにか心躍るものを感じるのは、今でも、木星土星は「別格」だと思っているからなのだろう。当時、たまに弟と将棋をやっていたからか、木星土星は「惑星界の飛車と角」というイメージがあって、それはいまでも変わらない。


この年末は、寒さを我慢して、久しぶりに夜の空を見てみよう。