モノオモイな日々 Lost in Thought

過去の覚書、現在の思い、未来への手がかり

昨夜の異常な入閣ニュース速報についての仮説

昨夜のNHKのニュース速報は異常だった。

リビングである番組を見ていたらニュース速報が流れてきた。けたたましいチャイム音と「ニュース速報」というひときわ目立つ文字。あれを見ると、いつもドキッとする。またどこかで地震が起きたのだろうか、国内で航空機が墜落したのだろうか、原子力発電所で事故がおきたのだろうか、まさか近くで戦争が始まったのではないだろうな…。そんなさまざまな想像が瞬間的に頭の中をかけめぐり、「最悪の事態」に備えて無意識に身構える。


しかし、昨夜流れてきたニュース速報はまったく「想定外」のものだった。それは「○○氏が入閣」というニュース速報だったのだ。しかも、一人ずつ別のニュース速報として、何連発ものニュース速報が垂れ流された。もちろん、それぞれのニュース速報のたびに、あの、心臓に悪いチャイム音と「ニュース速報」という文字が襲ってきた。


入閣のニュース速報がすべて意味がない、というのではない。とても意外な人(安室奈美恵とか)や、多くの国民が期待している人(誰も思い浮かばないが)が入閣したというニュース速報なら、まだわかる。しかし今回は「いったい誰?」と言う感じの、たいして大物でもない政治家の名前が「入閣者」として次々と知らされていくだけだ。しかも「○○氏の入閣固まる」という情報だけで、どの大臣・どのポストについたのかもわからない。そんな情報を一刻も早く知りたいと思うのは政治家に近い与党党員くらいだろう。後でまとめて「ニュースウォッチ9」で伝えれば十分な情報だ。


この異常な「入閣ニュース速報」の連発に、僕は最初とまどい、次にイライラし、最後にはあきれてきた。そして少し冷静になった後、なぜこのような異常なニュース速報が流れたのかを考え始めていた。今回のニュース速報は、「ちょっとひっかっかた」程度で忘れてしまうにはあまりにも異常だし、その裏に何らかの理由がなければ納得できないからだ。


僕が行き着いたのは、テレビ朝日の「玉城デニー当確ニュース速報」へのNHKのリベンジ、という仮説だ。



昨日、9月30日・日曜日の夜、沖縄県知事選が行われた。テレビ朝日は、開票が始まった八時過ぎに、いち早く玉城デニー氏当確のニュース速報を流した。そのあまりに早い当確速報は正直言って意外だった。これだけ注目を集めている知事選なのだから接戦になると思っていたし、中央政権と地元市民の対立の構図は、与党・野党の対立と重なり、伝える側のメディアも慎重になるだろうと思っていたからだ。だから、朝日の迅速なニュース速報には驚くとともに「強い思い」を感じた。それは僕だけではないだろう。その「強い思い」が、ジャーナリズムとして正統なのかどうかの判断は、また別の議論としてあるだろうが。


その逆に、NHKは、あきらかに沖縄県知事選の報道に及び腰だった。僕が見た限りでは、開票が始まった八時を過ぎても台風の報道ばかりで、県知事選の話題は一向に扱われなかった。僕は県知事選の夜は主に民放を見ていたので、NHKが玉城氏当確のニュース速報をいつ出したのかは知らない。ただ、他のネットの記事によれば、通常のニュースとして伝えたのは午後九時半を過ぎていたようだ。これは朝日の当確ニュース速報から1時間半も後だ。

日曜の夜は、日本列島を襲った台風24号を最優先で報道すべきだったことは間違いない。しかし、台風のニュースの中でも、まったく他の出来事を伝えられないはずはない。ましてやニュース速報なら、台風の報道を行いながら流すこともできる。この日、NHKは台風報道のために通常の番組スケジュールを変更して、ほぼずっと台風関連の報道番組を流していたから、沖縄知事選の報道を挟むのは通常より迅速にできたはずだ。


つまり、率直に言って、NHK(の政治部)は、玉城デニー氏の当選を伝えたくなかったのだ、と思わざるを得ない。NHKなら、事前の調査で玉城氏が勝つことはほぼわかっていたはずだ。ニュース速報も想定できただろう。しかし、伝えたくなかった。だから台風のニュースばかり流し、玉城氏当確の報道も遅らせたのだろう。


そんなNHKの、玉城デニー氏当確についてのニュース速報に不信感を持ったのは僕だけではないはずだし、多くの市民からの批判もあっただろう。「朝日はすぐに正しい当確情報を出したのに、なぜNHKは遅れたのか?NHKの調査能力が低いのか?政権への忖度で、中立・公正な報道がなされていないのではないか?」当確速報の遅れの背後に、NHKの、政権への「忖度」があったと推測するのは、けっして飛躍したことではない。今までの一連の状況をそれなりに見ている者なら、すぐに感じられる、自然な推論だ。


そのような批判を受け、NHKはリベンジしたかったはずだ。朝日にも、市民にも。NHKは、国内の他のどのメディアよりも情報調査能力がある、日本でもっとも優れたメディアだということを示したかったのかもしれない。NHKは現政権に強いパイプを持っている。朝日にはできない、政治の裏の情報を伝えることで、汚名を返上してやる。

そんな気持ちが現れたリベンジが、今回の「入閣ニュース速報」だったのではないだろうか。



と書くと、まだNHKにはジャーナリズムとしての気概が残っていると捉える人もいるかもしれない。隠された情報を先人を切って暴く、という強い意志はジャーナリズムにとって生命線だ。しかし、今回の入閣速報は、もはやそんな「ジャーナリズムの気概」ではなく、ある種ジャーナリズムを放棄した開き直りのようにも感じる。何をやっても「政権の犬」と言われるのなら、もっと政権に近づいて、もっと政権寄りの情報を流してやる、という開き直りだ。(なお、異常だと感じるのはNHKの中でも政治部だけで、社会部は良質なドキュメンタリーを作っていることは付け加えておきたい。)


以上はあくまでも、普通の市民として知りうること、感じられることだけからの勝手な推測である。しかし、何度も書くが、ここ数年のNHK報道、特に政治報道の内容から、行き過ぎた政権への忖度を感じとっているのは僕だけではないことは明らかだ。今回の僕の仮説にはそういう背景も影響している。それはけっして偏向ではない。むしろ、より強い根拠になっているし、深刻な懸念なのだ。



ーーーー追記ーーーーー

その後、ネットを見たところ、入閣のニュース速報は今回に始まったことではなく、前回の組閣時も流していたらしい。そして、僕と同じような違和感を持った人もいたようだ。それを鑑みればこの放送局には今、「玉城デニー氏の当確速報のリベンジ」ではすまされない、一市民が想像しているよりはるかに大きな力が日常的に働いていることを確信する。そしてその力が、日に日に強くなっていることを。

近い将来、私たち市民が向かい合うことになりそうな憲法改正は、憲法改正の内容の是非もさることながら、その是非を国民が正常・正当、公平に議論する環境がない、ということが最大の懸念だ。だから今回の問題を「入閣のニュース速報はちょっと仰々しかったけど、まあ害はないし、いいんじゃない」程度ですませてはならない、と強く思う。

どんな災害にも兆候がある。その兆候を見逃さず、適切な対応を取れるかどうかが生死を分ける。以前、災害のプロからそう習ったことを思い出した。