モノオモイな日々 Lost in Thought

過去の覚書、現在の思い、未来への手がかり

自己批判できるのが本当のメディア

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HPVワクチン(子宮頸癌ワクチン)の安全性を検証、情報発信してきた、医師であり、ジャーナリストでもある村中璃子氏が、ジョン・マドックス賞を受賞された。

正直なところ、僕は医療分野は門外漢で、HPVワクチンの安全性(の問題)については一般のニュースを通じて知っていたに過ぎなかったし、村中さんのことも知らなかった。


日本では年間2万7000人から2万8000人が子宮頸がんと診断され、3000人が亡くなっているという。

HPVワクチンは、この子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を防ぐワクチンだ。日本では、2013年度から、小学6年生から高校一年生の女子生徒を対象に、公費での接種が導入された。しかし、摂取後、痛みやけいれんなどの症状を訴える声が相次ぎ、同年6月に国は、HPVワクチンの積極的な推奨を停止した。

その後、メディアでHPVワクチンに対する「バッシング」が巻き起こり、現在の接種率は激減している。(今年10月の記事で、12歳の女子で1.1%、13歳女子で3.9%という数字がある

一方、多くの調査によって、HPVワクチンは、ほぼ確実に有効であると報告されている。HPVワクチンの摂取によって、若い世代の子宮頸がん発症率は半分以下に下げられるという。

HPVワクチンの有効性について(厚生労働省)

問題は、HPVワクチンの副作用があるのか、ということだ。あるとすれば、どのような副作用が、どれくらいの確率でおきるのだろうか。村中さんは、それを客観的に調査した。そして、報告されているような副作用は、HPVワクチンとは関係がないという結論を導いた。

村中さんの調査から、「HPVワクチンは副作用をもたらす可能性が大きい、有害なものだ」、という主張の根拠が薄れたことは紛れもない事実だろう。HPVワクチン否定派に「捏造」や「誤認」があったことも否定できなくなる。しかし一方で、今回の調査だけですべての疑念が解け、HPVワクチンは安全だと言い切れるものでもないと思う。少なくとも現段階では。


僕は、村中さんの調査を肯定・否定する十分な知識や情報をもっているわけではないから、この調査の是非についてこれ以上何かを言うつもりはない。ただ、僕が疑問に思うのは、なぜ今回の村中さんの受賞を、メディアは報道しないのか、ということだ。HPVワクチンの論争とは関係なく、村中さんがジョン・マードック章を受賞したことは事実なのだ。それは、HPVワクチン論争を先に進め、より真実に近い結論を導くための、大きなきっかけになるはずの出来事にもかかわらず。

メディアは、自分たちがバッシング・キャンペーンをはったHPVワクチン有害説に反するものは、いっさい報道できないのだろうか。自分たちの「思想」と反するものは伝えないのだろうか。


僕は、単純な両論併記による、みせかけの公正・中立を求めているのではない。そんな政治的なものはむしろ害悪だと考えている。僕はただ、事実を事実として伝えるという、とても簡単な要望を述べているのだ。それがジャーナリズムであり、メディアの最大の役割だと思うからだ。


権力者は間違いを認めない。なぜなら、間違いの責任を取らなければならないからだ。もっと平たくいえば、もし間違ったことを認めれば、次の選挙で票が減るからだ。


しかしメディアは、間違いを認めなければ存在価値がない。メディアとは「媒介」、つまり、権力と国民を、情報でつなげる役目を持っている。自分たちの思想はもっていいが、それ以上に重要なのが「事実を伝える」ということなのだ。

メディアも人間の行為であるから、間違いや誤解はある。それを認め、修正することがメディアに必須の姿勢だ。他人の間違いを指摘し、修正を促すことに国民の理解を得るためには、まず自分たちが間違いに対して真摯に向き合う態度を示すことだ。

そういう視点から、メディアは自分たちを含めて「他人事」と捉え、批判する側としては「朝令暮改」「無責任」でいい。ただし、批判される側になる覚悟も持て、ということだ。


自己批判ができるメディアこそ本当のメディアである、とメディアに伝えたい。


海外の一流科学誌「ネイチャー」 HPVワクチンの安全性を検証してきた医師・ジャーナリストの村中璃子さんを表彰