モノオモイな日々 Lost in Thought

過去の覚書、現在の思い、未来への手がかり

僕たちには、真犯人を見抜く「現場感覚」が求められている

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科学衛星「ひとみ」の事故原因を分析した報告書が公表された。それをもとに松浦晋也氏が書いた記事を、上に引用した。この記事で松浦氏は、「M-V(ミュー・ファイブ)ロケット廃止によって、理工研究者の一体感が喪失した」ことが、今回の事故の根底にある原因だと推察している。しかし、僕は、もしM-V廃止が影響したのだとしても、根本原因となったのは、理工研究者の一体感の喪失よりも、もっと単純に、M-Vという宇宙研生粋のプロジェクトがなくなったことによる、現場感覚の喪失ではないかと考える。(ソフトウェア書き換えの事前シミュレーションを行わなかったのが非常に初歩的なミスであることは松浦氏の言うとおりで、航空宇宙プロジェクトでは通常あり得ないことだと僕も思う)

それは、言い換えれば、実際にものを作り続けることではじめて維持できる、「勘と経験」のようなものだ。そういう「勘と経験」は目に見えないし、ましてや数値にはできるものではないので、トップダウンによる(すなわち、現場を理解しない人による)コスト削減の圧力の下では、まっさきに無視されてしまう。それがなぜ必要なのか、どれくらい貢献しているのかを言葉にすることは難しい。しかし「勘と経験」が、コンピュータや、ルール化・細分化された管理システムの中には組み込むことができないものであり、(少なくとも今のところは)人間にしかできない、一種の「最後の砦」であることは、多くの人が感じていると思う。

世の中で進む効率化、とりわけ、「アウトソーシング」という大きな流れの中で、品質が低下しているのは、なにも宇宙開発だけではない。あらゆる分野のものづくり、医療を含む専門サービスなど、人間の活動すべてにおいて、アウトソーシングは自分の感覚として把握できない「ブラックボックス」を増やしている。それが結果として、個々人の想像力を欠如させ、品質の低下を生んでいるのだと思う。


なお、今回の宇宙研の報告書は、(従来の「お役所仕事」の形式的な報告書と比べれば)非常にスピーディーかつ詳細で、オープンな内容だと感じた。この報告書を見る限り、宇宙研は素晴らしい研究組織だと推測できる。全体的なレベルで見れば、品質が低いとはけっして思わない。それどころか現在の日本の中では、最高峰の研究マインドをもつ組織であり、他の組織の規範となる活動を続けていると僕は思う。


その視点から付け加えたいことは、ここ最近、僕たちは「責める相手」を間違いがちではないか、ということだ。正直に情報を公開し、その結果マスコミで連日取り上げられる組織は、時に再起不能になるくらい徹底的に叩かれる。その一方で、情報を隠蔽し、裏で政治家やマスコミを抑えこんで「うまくやる」組織は平然と不正を続けている。そんな状況こそ、品質低下の最大の要因であり、もしよりよい社会を作りたいなら、絶対に見逃がしてはいけないことのはずだ。そんな組織が続ける不正や怠惰、癒着を見逃していけば、将来、僕たちは大きなしっぺ返しを受けることになるだろう。

僕たち一般市民が意識するべきことは、(マスコミによって)伝えられる情報に惑わされず、与えられた情報をすべてを信じず、逆に隠されている情報に目を向け、少しでも真実を理解する努力をし、自分自身の目で見て自分自身の頭で考えることだと思う。今、おきた問題が、勇気ある挑戦から生まれた未来につながる失敗なのか、それとも、人々を欺く、悪意のある捏造・怠慢なのかを区別する目を持つこと。それが、僕たち一般市民がもつべき「品質」なのだ。

ミステリー小説を読むのも悪くないが、現実社会の問題をじっくり見て、その「裏」にいる真犯人が誰なのかを推理してみることも(不謹慎な言い方かも知れないが)けっこう楽しい。そうやって推理と論理を積み重ねていくことで、市民としての、社会に対する「現場感覚」が身についていくのではないだろうか。