モノオモイな日々 Lost in Thought

過去の覚書、現在の思い、未来への手がかり

脱企業の社会〜ダグラス・ラシュコフ "Life Inc."

https://vimeo.com/4655092

自身、小さな企業を経営する身ではあるが、「経営者」と言う言葉にはずっと馴染めないでいる。売上や利益、雇用と言った「企業的なもの」と、個人としての生き方や価値観の間に、何か大きな溝があるように思える。それをどのように解決すればよいのかがはっきりしないのだ。「この方向だろう」と思っていることはあるが、それが正しいという自信が持てない。ずっと居心地の悪い状態だ。

そんな中、雑誌Wired最新号の特集「未来の会社〜これからの働くを考える」は、まさにこんな記事が読みたかった、と思えるものだった。とりわけ、ダグラス・ラシュコフへの短いインタビューは刺激的だ。僕がずっと疑問や違和感を感じていたことへの答を、端的に、かつ挑発的に言い切ってくれているように思えた。ラシュコフ氏の言葉は、新しい行動を始めるための大きな支えになるだろう。

その後ネットで調べると、著書"Life Inc."発刊時のラシュコフへのインタビューを見つけた。これもまた示唆に富んだ内容だったので、日本語に訳してみた。

 

---(以下、ダグラス・ラシュコフのビデオより)----

クリスマスイブに強盗にあいました。私はすぐ自分のアパートにもどり、保護者のメーリングリストに強盗にあった場所や時間を投稿しました。それから1時間たたないうちに、2つのEメールをもらいました。私が強盗にあったことを心配してくれたのではなく、強盗にあった場所の詳細を投稿したことへの苦情でした。その地域の不動産の価値を損なうという理由です。

 

この出来事はショッキングでしたが、同時に、なぜこのようなことになったのか、なぜ人々は自分たちの地域でのお互いの体験よりも不動産の価値を気にするのか、ということを考えさせてくれました。

 

まず最初に着目したのは、現代のアメリカ人は、お互いに切り離され、自分の住む場所から切り離され、自分たちが創った価値から切り離され、さらに自尊心からも切り離されているのではないか、と言うことです。結論として行き着いたのは、企業、企業的思考、いわゆる「企業主義」がこの現象の中心にあるということです。私がこの本を書いたのは、人々が、それぞれの環境で、我々の社会の基本ルールを受け入れていることに気がついたからです。このルールは歴史上ある特定の時期に、ある特定の考え方をもった人々によって作られたものだということを知らずに、です。

 

現在、私たちはどんな世界に住んでいるのでしょうか。お金をかせぎたければ企業で働かねばなりません。私たちが手にする「お金」と呼ばれるものは、中央銀行が発行する通貨です。この世の中では売りまくらなければ、成功することはできない。…この方程式は、ルネサンス時代に導入されたのです。ルネサンス時代は「文明化の黄金時代」だと習ったことでしょう。しかし、ルネサンスは黄金時代ではありません。黄金時代の終末です。ルネサンスとは西欧において、人々が創りだしたすべての価値を、国王が独占することを決めた時代です。人々に物を作らせたり物を交換させる代わりに、企業を作ったのです。私たちは力を失い、お金を失いました。支配者たちは、新興の商人層を支配するために、個々の商売を選び、免許を与え、産業や地域に対する特権の見返りとして、分前(株)を得たのです。人々は企業で働かなければならなくなり、地域ごとに独自にあったお金は、法貨として統一されました。人々は自分でモノを作り、交換し、売る代わりに、出資者、パトロンが必要となりました。この権力の集中は現代まで続いています。

 

工業化時代は、この非人間的な傾向をより進展させました。私たちは、優れた機械を作れば、よりよいものを生産できると考えます。実際の工業化時代とは、人々の結びつきを断ち切り、労働や消費、楽しみから切り離すものです。工業化時代のために作り上げた社会は、大量生産を礼賛します。作った商品を買うことが幸せになることだと思わせる、消費者の社会を作ることが必要なのです。

 

特にアメリカでは、個人の幸福を過度に追求しています。たとえ他の人から孤立しても、自分自身が幸福なら幸福だと考えるのです。私は子供の頃、クインズの中流階級地域で育ちました。家々は近く、共有の裏庭にバーベキュー・ピットがありました。金曜の夜、誰かが火をつけ、子どもたちは食べ物を持ち寄り、週末中バーベキューを楽しみました。やがて父親の稼ぎが増え、私たちは「より良い」地域に引っ越し、自分たちの家、自分たちの庭、自分たちのバーベキューを手に入れました。バーベキューは私たちの家族だけのものになりましたが、近所の人たちと一緒にバーベキューをする代わりに、あたかも近所の人とより良いバーベキューを競いあうようになったのです。バーベキューの楽しみがなくなる代わりに、GNPは向上しました。より多くのものが売れるからです。バーベキューを楽しむという地域の精神は奪われました。

 

私たちの多くは、働き、消費することに多くの時間を費やし、他の人と何かをする時間やエネルギーはほとんど残っていません。仕事を終え、大型スーパーで買い物をした後は、寝る前にカウチに座ってテレビを見るくらいです。他の人と会う時間を作ることはほとんどありません。競争の中で個人として振る舞うほど、他人と友好的に出会うことは難しくなっています。

 

私は、「コンフォート」と言うレストランのオーナー、ジョンと知り合いになりました。彼は銀行からお金を借りることができず、レストランの拡張工事が中断していました。私たちが考えついたのが、「コンフォート・ドル」というアイデアです。100ドル払えば、レストランで使える120コンフォート・ドルがもらえる。投資に対して20パーセントのリターンが得られるわけです。ジョンは銀行からお金を借りるより安く、工事を完了することができました。

同様なことは、あらゆる人々にも可能です。お互いに投資し、地域をより良くする。投資のリターンを、投資会社ではなく、実際に住んでいる場所で見ることができる。これは難しいことではありません。

 

オバマ大統領は、財政危機は銀行の危機であり、まず最初に必要なのは銀行を救うことだと言いました。これは、馬鹿げているし、悲しいことです。銀行は最初に救うべき組織ではありません。銀行は滅ぶべき組織なのです。私たちが商売を自分たちの手に取り戻すために。

 

今起きていることは、危機ではなく、機会です。おそらく今は、この数百年間で初めて、私たちの生活を破壊するのを止め、人間のための原理に基づいて、私たちの社会や経済を再構築する機会なのです。

 

世の中に大きな変化が起きようとしている。そう感じている人も多いだろう。今、様々な場所で起きている様々な活動には、共通した大きな根があるように感じる。ラシュコフ氏は、その共通した根を表現する思想家の一人だと思う。