モノオモイな日々 Lost in Thought

過去の覚書、現在の思い、未来への手がかり

知の交換、集合脳、Makerムーブメント

マット・リドリー: アイディアがセックスするとき | Video on TED.com

 

英国のサイエンス・ライター、マッド・リドリーによる「アイデアがセックスする時」と言うTEDトークがある。センセーショナルなタイトルだが、内容はいたって真面目で示唆に富んでいる。ここで言うセックスとは生物の生殖活動ではなく、「交換」と言う意味だ。リドリー氏は、あらゆる生物の中で交換を行うのは人類だけであり、人類はアイデア=知を交換することで進化してきた、と言う。その現れが「分業」である。分業によってはじめて、人類の文明は高度化できた。

分業が有効性を発揮するには、それぞれの持つ専門性が「際立つ」ことが必要で、そのためには、ある数以上の人間が集まらなければならない。例えば、たった4000人が島に隔離されたタスマニアでは、分業が進まず、文化は衰退したという。

現代社会は、タスマニアの逆を突き進んでいる。インターネットによって、世界規模での知の交換が可能になった。インターネット社会は、リドリー氏の言う「分業=知の交換」の視点では、人類史上最高の環境であると言える(将来、宇宙人と分業する可能性は別にすれば)。インターネットは人類全体にとっての「集合脳」であり、文明の進化を加速するエンジンである。

 

昨今、ものづくりを自分の手に取り戻そうと言う動き、「Makerムーブメント」が広がろうとしている。部品や素材レベルにまで遡って、今まで大企業しか行えなかったものづくりを少人数で行おうと言うMakerムーブメントは、一見、知の交換や分業と対立するように思えるかもしれない。しかし、実はそうではない。それどころか、Makerムーブメントは、インターネット上で高度な知の交換が可能になったことで初めて実現する新しい文化だ。

特殊なセンサーや機械部品、3Dプリンターやレーザーカッターのような、少し前ならどうやって調達すればよいかわからなかった高度な部品や工作機械を、インターネット上で見つけ、利用できる環境が整ってきた。完成された製品を交換することしかできなかった時代から、モジュールや部品・素材、加工作業のレベルでの交換が可能な時代になったのだ。それによって、全く新しい、かつ、高品質のものづくりを、少人数・小ロットで行うことができる。そこから生まれたものはまた、他のMakerたちに利用され、さらに新しいものづくりの土台となる。


インターネットによって爆発的に加速する、知の交換。それこそが、これから始まろうとしている新しいものづくり、そして文明発展の本質だと感じる。