モノオモイな日々 Lost in Thought

過去の覚書、現在の思い、未来への手がかり

科学探偵あいんしゅたいん

NHK BSで以前放送されていた「名曲探偵アマデウス」は、僕の好きな番組のひとつだ。

誰もが知っているクラシックの名曲を取り上げ、時に音楽理論から、時に歴史背景から、時に心理面から、名曲の裏に隠された「秘密」を多面的に明らかにしていく番組だ。素晴らしい調査と構成、わかりやすい解説で、いつも45分間があっと言う間に終わる。

 

毎回おもしろいのだが、特に記憶に残っているのが、ホルストの「惑星」の回だ。その中で「木星」の冒頭のメロディーが取り上げられた。複数のストリングス・パートが重なりあって響きあう、誰もが宇宙の壮大さ、神秘さを感じるパッセージだ。(大抵の人は聴いたことがあると思うが、念のためこの曲です。)

こんな複雑で緻密な音楽をどうやって創ったのだろう?ホルストの神業だ!と思っていたのだが、番組の解説を聞いて、その謎が解けた。

 

この一見(一聴?)複雑に思える冒頭部、実は、各楽器パートに分解すれば「ラドレ」「ミソラ」を繰り返すだけの、たった2つのシンプルな旋律からできているのだそうだ!

 

もちろん仕掛けがある。各パートの開始が半小節ずつずれているのだ。このずれによって、毎回音の組み合わせが変わり、あの「複雑で緻密」「壮大で神秘的」な響きが生まれる、と言うわけだ。

 

パート1A             ラドレラドレラドレラドレ……

パート1B         ミソラミソラミソラミソラミソラミ……

パート2A     ラドレラドレラドレラドレラドレラドレラド……

パート2B ミソラミソラミソラミソラミソラミソラミソラミソラ……

 

このような解説の後にあらためて木星の冒頭部を聴くと、同じ音楽がより深く、より明瞭に感じられる。好きな音楽がさらに好きになる。普段は離れ離れの、知と情がぴったりと組み合わさった感覚は、とても心地良い。

 

科学や理科も、この「名曲探偵アマデウス」のように伝えることができたら、どんなに素敵だろう。教科書に載っている現象や数式や法則を表面的に伝えるだけではなく、その裏に隠された「秘密」を明らかにする。どんな要素からできているのか、それまでの常識と何が違うのか、どうやってそこにたどりついたのか。そんなことを、科学、歴史、人物など多面的に「謎解き」していくような番組。そんな科学番組ができれば、最高のエンターテイメントになるはずだ。

そんな作品を、いつか作りたいものだ。

 

ホルスト「惑星」第4曲「木星」冒頭部の楽譜

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注)このブログは、2009年10月に書いたブログ、第27回:「法則探偵あいんしゅたいん」by 保田を改訂したものである。